「起業するなら金は借りてはダメ」という話

かつてのネット起業的なものとはちょっと質が変わって、最近またハードウェアやVRをネタに起業する人が周囲に多くなっている。

で、僕自身は昔から会社起こしつつ裏切られたり逃げられたりもあって成功はできてないのだが、とはいえ一定の経験は積んでるし、特に失敗例だけは(爆)多く学んでるから、ごく簡単な落とし穴の話をしておこうかと思う。

いや、ある程度賢明な人なら僕の話なんてまったく聞く必要ないっす。でも、少しでも参考になってくれりゃいいなと。

借りた金で会社を支えちゃダメなのよ

法人を起こすだけで、金は貸してくれる。銀行からしたら資産もないできたての会社には貸すわけないが「日本政策金融公庫」という公的な金貸しと、「信用保証協会」という公的な保証人が貸してくれる。

新創業融資制度|日本政策金融公庫

www.cgc-tokyo.or.jp

でも、大原則としてこれを借りちゃいけない。それはなぜか?超当たり前の話だが「借りた金は返さなきゃならないから」だ。当たり前すぎて話を聞く気にならない?いやいやもうちょっと聞いてよ。

 借金を返すのは税引後利益から

たとえば1,000万円借りたとする。人を雇用せず1人だとしてもたいしたことはできないし、もし事務所借りたりバイト雇ったりしたら一瞬で消える額だ。でもね、これを5年で返済すると年間205万円くらい返すことになる。金利とか据え置き期間とか条件はいろいろだが、ここではざっくり説明ね。

この205万円は、当たり前だけど会社経費ではない。あくまで税引後の利益から返済することになる。つまり超ざっくりいうと年間300万円の利益を出して法人税などを支払ってやっとこさ返せるという額なのだ(税率はあくまでざっくりね)。

ビジネスを回してケータイ代だの交通費だのガソリン代だのを支払い、そして重要な話として自分の給与をちゃんと払った上で、毎月25万円の粗利を出す自信が100%あって、それを1ヶ月も欠かすことなく5年間保てると絶対に思えるなら、どうぞ1,000万円借りてください。念を押すけど「今月はちょっと足りなくて」なんていうのはダメだからね。5年間欠かさず、ね。

そして、その毎月の25万円っていうのは1年で300万円になるけど、税金払って借金返済したらまったくゼロになるか、ちょい足りないくらいだからね。毎月25万円の粗利を着実に得ても手元に残るのはゼロ、それが1,000万円借りるっていうことなんだな。

人を2人くらい雇用し事務所を借りたら1,000万円じゃ到底済まなくて、軽く3,000万円くらい借りてもあっという間に消える。そうなると毎月75万円の粗利を必達で稼いで、それで一銭も残らないレベル。それを着実に継続する自信あるの?

金は借りてもいいが消費してはいけない

つまり、借りた金を使って給与を支払ったり製品を開発したり事務所を借りたりしたら、その金を返すには本業で相当儲けてないと無理っていうこと。

だから創業時に金を借りてもいいけど、実はそれって「消費」しちゃいけないんだな。物品を買っても家賃に使っても給与として払ってもダメ。それは未来の自分の首を絞める行為に他ならない。

唯一OKなのは「つなぎ資金として使う」という形だけだ。モノを仕入れる、材料を仕入れるという行為はお金を一旦モノに変える行動で、それが確実にまたお金に変わるのであればなんとかなる。

あるいは役務提供的な話であれば、100万円で受注したけど入金が4ヶ月後というときのつなぎにお金を使うなら、会計上は「売掛金」という幻のようなお金が存在しているのでお金は減ってない。

もう一歩譲って「確実にお金を生み出す機械を買う」のなら、そいつが生み出す利益で返済はできるかもしれないし、利益を生み出した後の機械を中古売却するなんていう形も取れるかもしれない。

でも、パソコンだのVRゴーグルだのを買うのを「設備投資」と考えるのは大きな間違い。これらは人が深く関わらねばお金を生み出さないので、そっちの人件費のほうが重いのだ。

1人で起業して借入金1,000万円が振り込まれたとき、「これで新しいパソコンとかVRゴーグルとか買ったら仕事が有利に進められる」と思う気持ちはわかるが、じゃあそれが自分の人件費や社会保障費を払った後に毎月25万円の利益を確実にもたらすものか、っていうことはちゃんと考えてね。

信用保証協会はもっと怖いぞ

借入金の怖さは「当たり前だが返さなきゃいけない」と「手元にあるとつい使ってしまう」ことのほかにもう一つ落とし穴がある。それは「あなたの事業や製品を評価して貸してるわけじゃない」という点だ。創業融資では事業計画などはもちろん作成するが、金融機関がそれを評価する能力なんてゼロで、書類や条件が揃ってたら貸すだけだ。当然に貸し倒れも多いが、日本は起業があまりに少ないから「どうせコゲつくだろうけどしゃーない」と貸してるに過ぎない。

信用保証協会の落とし穴はもっと大きくて、あれは銀行が融資し公的な保証が付くという形だから、銀行としてはあなたがつぶれようがどうしようが貸しさえすれば自分ちの商売にはなる。だから1〜2期黒字決算すると「借りてくれ」と売り込みに来るから「俺も銀行から借りてくれとお願いされるくらい出世したぜ」とかのおめでたい考えになってつい借りて、つい浪費してしまう。

そうやって「借りた金を浪費し窮地に陥る」という会社を僕は多く見てるんだな。

エンジェルからの投資を受けることの意義

一方、起業の際に製品やサービスの素晴らしさを訴えて誰かから投資してもらう、資本金として投資してもらうという方法もある。この場合は事業の内容や将来性と、何より「あなたがそれを遂行できるか」を投資側はちゃんと見極めるし、間違った方向に進みそうになったらちゃんと注意なり叱責なりをしてくれる。

そういった「心構え」的な点でプラスであると同時に、会計上も優位だ。仮に誰かがあなたの会社に出資してくれたとして、それが1年で戻って来るとは思わず、どんな短くても3年くらいは待ってくれるだろう。その間は返済はいらないし、出資してくれたお金の重みを日々感じながら、それを増やそう、絶対に減らすまいという気持ちで仕事をするのだから方向性としては良い。

そして毎月の返済がなければキャッシュフローも楽になり、じっくり中期的なビジネスに取り組める。無理して利益出して納税して返済資金を作らなくてもいいから、ときに戦略として人件費や外注費を研究開発費計上して黒字幅を圧縮する戦略も取れ、法人税を減らしつつ会社の基盤を固められる。

だから金は借りちゃダメよ

ということで繰り返すが、起業すると金は貸してくれる、でも大原則は借りちゃダメだし、借りたとしても使っちゃダメなのよ。3,000万円が入金されたからって欲しいPCとかホイホイ買っちゃダメだからね。

そういう意味では、1人でやる場合はあえて法人化しないで金も借りられないようにしとくっていうのも手かもね。

それといま人に雇われてるなら、自分が月に100万円の利益を会社にもたらしてたとしても、会社が使ってる金っていうのは思いの外多いんすよ、っていうのも考えておいてほしいもんです。

おしまい。